
日本では、介護にさまざまな最先端の技術を導入する取り組みが行われています。その先駆けとして注目されるのが、東北の秋田県で介護事業所を運営する「あきた創生マネジメント」です。前編では、ICTツール導入のきっかけとその効果について、代表の阿波野聖一さんに聞きました。
阿波野聖一
株式会社あきた創生マネジメント代表取締役。現在秋田県内で3法人5事業所を運営。近年は海外人材起用の好事例としても全国から注目され、セミナー等多数登壇している。
あきた創生マネジメント
デジタル化の推進
https://rin-sousei.com/forthefuture/digital
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手書きの記録から「iPad」へ
私自身も介護の現場にいたので、業務効率についてよく考えていました。手書きが主流だった介護記録も今後はデジタル化されると予測して、10年前に「iPad」を導入したのが最初です。当時はスタッフ全員で、iPad3台とPCを使い分けていました。
その頃のスタッフは全員日本人で、40代が多く、ICTツールの導入に戸惑う人もいました。秋田は保守的な地方都市です。iPadを業務で利用するには時期が早かったのかもしれません。それでも、3ヶ月目にはほとんどの人が使えるようになりました。ただ、新しいツールに慣れなくて退職した人もいました。
手書きをやめて、変化を実感したのは、介護記録が見やすくなったことです。介護事業所には、行政の運営指導が定期的に入り、その際、必ず介護記録をチェックされます。手書きの時は、何枚もの紙の書類から必要な情報を探し出すのに、たいへん時間がかかりました。それがiPadでは、「キーワード検索」ができます。いつ何があったか、情報を素早く引き出せるようになり、それまで1日がかりだった運営指導が半日で済むようになりました。情報を探すのも、書類作成も簡単で、業務効率化が進みました。
「見守りロボット」で皆の負担を軽減
4年前に補助金を申請し、「見守りロボット」を導入しました。利用者さんのベッドのマット下に取り付けているバイタルセンサーで、心拍数など利用者さんの状態がわかります。以前は、毎晩定期巡回を行なっていました。利用者さんが起きているか寝ているか、見回る度に部屋の灯りを付けるので、利用者さんの睡眠の妨げになっていました。今はバイタルセンサーで状態が分かるので、深夜の巡回も不要。利用者さんとスタッフ両方の負担がなくなりました。介護のロボット技術は年々進化しています。補助金などを有効活用して、全国の事業所で導入が進むといいですね。
私たちのことをテクノロジー導入の先行事例と言われますが、人材不足から業務を効率化する必要があって、取り入れてきたことです。デジタル化は若手スタッフに好評で、新人が入るようにもなりました。
インドネシアから来ている海外スタッフも、さまざまなツールを使いこなしています。その中心となるのが「LINE WORKS」です。翻訳機能付きで、日本語のテキストの下にインドネシア語が表示されて、日々の「申し送り事項」も伝えやすく便利です。
手書きは、雑な文字だと日本人同士でも読めないことがあります。海外スタッフはなおさらです。介護の現場において、ICTは、コミュニケーションを円滑にして人間関係を培う大切なツールだと思います。介護も古い価値観のままでは続けていけません。私たちは、現場の仕事も人の意識も土台から変えよう、介護をリデザインしようと掲げ、取り組んでいます。
全国から、私たちの事業所へ見学に来られます。テクノロジー活用だけでなく、海外人材の働く姿を見たいという方も増えました。インドネシア人スタッフが流暢な秋田弁を話すことに驚かれます。もちろんICTツールの活用だけでなく、利用者さんとの毎日のコミュニケーションと個々人の勉強によるものです。